孫社長、自己評価は「28点」後悔はあるが「先は明るい」 ―ソフトバンク2018年3月期 第1四半期決算
ソフトバンクグループ株式会社は2017年8月7日、2018年3月期 第1四半期(17年4~6月)の決算を発表した。売上高は前年同期比2.8%増の2兆1,861億円、営業利益は同50.1%増の4,793億、純利益は同97.8%減の55億円であった。中国Alibaba株のデリバティブ取引に関連して2571億円の損失を計上したことが響いた。
2017 年5月20日にソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF) が初回クロージングを完了したことに伴い、新たな報告セグメントとして「SVF 事業」が設けられた初の決算発表となり、SVFの営業利益は1052億円を計上。営業利益は、前年同期比50.1%増の4,793億円となった(SVFを除いた営業利益は前年同期比17.2%増の 3,740億円)。
スプリント事業で 866億円、ヤフー事業で 13億円、それぞれのセグメント利益が増加した一方で、国内通信事業で 205億円、流通事業で 43億円、それぞれのセグメント利益が減少したほか、新設のアーム事業で 69億円の損失を計上した。
純利益は前年同期比97.8%減という数字になっている点について、孫正義社長は「会計上は紛れもない事実」として、アリババ株売却益のデリバティブ取引による損失だと説明。
3年後に売買が成立する本契約では、売買成立までは株価が上昇すると会計上は評価損を四半期ごとに計上する必要があるため「評価損を計上した分は、2年後に評価益として繰り戻されるため問題はない。財務諸表上では大きな損失をしているように見えるが、実際には貯金をしていると捉えてほしい」と語った。今回、デリバティブ損失を除くと純利益は前年同期比61%増となる。
■国内通信事業
売上高は、前年同期比0.8%減の 7,557億円となった。そのうち、通信サービス売上は同0.6%減の6,023億円、物販等売上は同1.8%減の 1,532億円だった。通信サービス売上の減少は、「おうち割 光セット」の累計適用件数の増加に伴う割引総額の増加に加えて、モバイルデータ通信端末および PHS 契約数の減少により、移動通信サービスの売上が前年同期から4.5%減少したことによる。光回線サービス「SoftBank 光」の契約数の増加に伴い、ブロードバンドサービスの売上が前年同期から31.0%増加したが、移動通信サービスの減少を補いきれなかった。
これらの売上高の減少に加えて、営業費用が前年同期から2.8%増加したことにより、セグメント利益は前年同期比8.6%減の 2,185億円となった。
また、調整後 EBITDA は前年同期比6.2%減の 3,294億円、フリー・キャッシュ・フローは同9.8%増の 765億円となった。
■スプリント事業
売上高は、前年同期比1.8%増の 82億米ドルとなった。端末売上は、中古端末の外部企業への売却や携帯端末のリース料収入が増加したことにより、前年同期を上回った。一方、通信売上は、ポストペイド契約数が増加したものの、低料金プランの普及が拡大したことや 2017 年1月に端末保証サービスの提供形態を変更したマイナス影響により、前年同期を下回った。
売上高が増加した一方、営業費用が前年同期から1.8%減少。周波数ライセンス交換差益 5億米ドルをその他の営業損益として計上したことも、利益の増加に寄与し、セグメント利益は前年同期比184.4%増の 12億米ドルとなった。
■質疑応答
――プレゼンの中で、WeWorkやDiDiなどの配車サービスの話のときに、「プラットフォームとそうでないものはまったく違う」「わかる人にはわかる、わからない人にはわからない」と話していたが、プラットフォームとそうでないものの違いについて、あらためて、くわしく説明してほしい。
孫氏:プラットフォームというのは、言ってみれば胴元みたいなもの・OSのような存在。その上にいろいろなアプリケーションが乗るように、1つの共通基盤として多くのパートナーが、その上に乗っかってくる。そういう共通基盤を提供しており、単なる1アプリケーションではないということ。
そのプラットフォームとは、やはり圧倒的マーケットシェアをもって、その業界の基盤を作らなければいけない。自らがアプリケーションと競合するのではなくて、多くのアプリケーションを提供する事業者を、自分たちのプラットフォームの上に抱える場を提供する。言ってみれば、アリババが多くのマーチャントを、そのプラットフォームの上に乗せて、それぞれのマーチャントは一般消費者に物を売る。課金のプラットフォームを提供するのが、アリババグループであり、商品を検索したり、やり取りをする場を提供したりする。
同じように、例えばDiDiの場合でいうと、自らが運転手を抱えて、自らが運転業務を担当するのではない。そのプラットフォームの上に、ある種の個人事業主のような立場の、多くの運転手のみなさんを乗せる。運転手が個人事業主のような立場で、たくさんそのプラットフォームの上に乗っかる。DiDiは、顧客をどの運転手に配分するのか、ヒートマップを作って、個人事業主である運転手のみなさんが、どこに行けば今お客さんが手を挙げるであろうか、ということを事前に予測する。
課金のプラットフォームもそこに提供し、全体を俯瞰して多くのお客さまに、サービスを提供する。これはプラットフォームである。
WeWorkも同じように、自分で不動産・ビルをもっているわけではない。多くのビルを所有している不動産事業者から、ビルのフロア、あるいはビルを丸ごと預かる。その上に、個人の多くのオフィスをもちたい人々に、個人の働くオフィスの場を共有スペースとして提供する。
あるいは、中小企業・スタートアップの会社、最近はAmazon、ゴールドマン・サックスのような大企業も、続々とWeWorkのプラットフォームの上に乗る。
WeWorkのプラットフォームの上に乗ったほうが、オフィスのコストも下がるし、かつコミュニティの増大によって、仕事の効率も上がるということを、大企業も認識し始めた。
プラットフォームというのは、一般的には、その分野の30パーセント・50パーセント・80パーセントというマーケットシェアをもって、多くのプレイヤーをその上に集める。そのような生業のことを言う。我々の好む投資先の多くは、そういう立場の会社が多い。
――スプリント再編の行方について教えてほしい。3ヶ月前の決算会見のときに、「一番の本命は、T‐Mobile USだ」とおっしゃっていたが、現状でも、その考えに変わりはないか。あと、いつごろ話がまとまりそうかも含めて、可能な範囲で教えてほしい。
孫氏:基本的にスプリントについては、今、複数の事業統合の相手先を想定し、また交渉を行っている。これについては、近い将来ということで我々は考えている。我々なりに「近い将来」だと思っているので、なおさらのこと、コメントは控えさせていただきたい。
――NTTドコモとKDDIが、いわゆる分離プランと呼ばれる、料金が1,500円安かったり、5段階に料金が変わっていったりするような料金プランを導入した。今回ソフトバンクは、とくに国内通信事業として対抗策を打ち出していないように思う。なにか、そこに対して考えがあるのかということと、Y!mobileは好調だからそのままでいいのか。
宮内氏:我々は常に、世の中の状況によっていろんなプランを考えるが、現在のところはまったく考えていない。なぜかというと、Y!mobileも順調であり、ソフトバンクブランドのモバイルもデビュー割等で、スマートフォンの数字がどんどん伸びている。ここ1ヶ月ほど様子を見ていたが、まったく影響がない。
それと同時に、Y!mobileのブランドと、ソフトバンクモバイルブランドの2つの差別性がうまく演出できている。ユーザーにもフィットしているのではないかということで、今のところ、まったく変える方向性はない。
孫氏:分離プランということで、特段大きな値下げだという実態にはなっていないのではないか。そういうことで、ユーザーが特段、そちらに多く流れ込んでいるというようには認識していない。したがって、我々は今のところ必要ないのではないかと考えている。
――5Gという技術について、今のソフトバンクの取り組みの状況と、孫社長の技術に対する期待の言葉を頂きたい。
孫氏:5Gは必ずやってくる重要な技術だと認識している。技術が2Gから3Gになって、3Gから4Gになって。4Gから5Gになるというのは、大きな流れとして間違いなくやってくる。
5Gになると、なにがよくなるのかというと、通信速度が速くなれば、通信のレイテンシが短くなる。IoTのいろいろな接続に、より適したネットワークができる。利点はたくさんある。
いつごろの時期かというと、2020年以降だと思う。しかしソフトバンクは、5Gのスタンダードが完全に固まる前に、すでに5Gの中核的技術の1つであるMassive MIMOが、世界でもっとも早く、商用サービスに入っている。
だから、ソフトバンクは5Gの主要機能を、実はもう先取りしてやりはじめてる。それは、我々の2.5GHzを使ったTBLTでより早く実現できるということで、やり始めている。
5Gの時代になると、2.5GHzは5Gの時代のプラチナバンドになると我々は認識している。それをたくさん持っている、またその技術を蓄積してきたソフトバンクグループには、そのメリットがたくさんやってくると考えている。
――ソフトバンクは、日本の財閥とも、従来のベンチャーキャピタルとも違うという話がプレゼンの中にあったが、その組織論についてもう少し話を聞きたい。
孫氏:「SoftBank Vision Fund」というのは、必ずしも株式51%を取りにいくのではなく、我々のブランドで染めるわけでもなく、我々が送り込む経営陣によって、子会社としてマネージするわけでもない。しかし、だいたいのケースにおいて、20%から40%近い株式を持ち、筆頭株主あるいはそれに近い立場で、その会社の経営に影響を与えるレベルのグループを構築していく。
単なる事業提携であれば、3年や5年で事業提携が終わってしまう可能性がある。やはり資本を持っている、血の繋がりがあるということは大きい。ベンチャーキャピタルのように、3%・5%持って、上場したらすぐ売るような、短期的取引でもない。従来の銀行のような貸付をしているという相手でもない。
血のつながりを持った資本的提携であり、もっと重要なのは、情報革命という志・ビジョンを共有している起業家集団だということ。
そのため、いろいろな業界にただ跨る、儲かればいい、金銭的つながりだけだということとは、また違う。また、我々のブランドやコントロールで染め上げるというものでもない。
これは、「同士的結合」というソフトバンクなりの新しい概念の在り方で、軍戦略をやろうとしている。情報革命のシナジーを出し合う、戦略的シナジー集団だと、我々は捉えている。
――先週、クラウレ社長が会見で、「自由に統合相手を選べたら、やはり携帯電話事業者が理想」と言っていたが、孫社長も同じ考えか。そしてやはり、今もT-Mobileが本命で、T-Mobileとの交渉が生き続いていると理解していいか。
孫氏:統合の時期、少なくとも我々が意思決定する時期は近いと思っている。だからなおさら、1社ではなくて複数を考えているので、ヒントになるようなことは、残念ながら言えない。
――プラットフォーム論について、DiDiなども、我々はトランスポーテーションだと思っているが、将来的には中国ですから。EVを自動運転で送る、みたいなモデルもある。ロボットであと、今出資したところを全部合わせると、動作機能が高いものにクラウドベースで操作して、なおかつ自動運転もする。そうすると、スマートロボットになる。
このぐらいはわかるが、そのNVIDIAのところ。今回1,000億円の構成革新の上昇が出ていて、上場している株の投資1,000億円は出ているが、それだと金融投資と同じ。このarmとNVIDIAを合わせると、どういうプラットフォームになっていくのか。
商品的には、今は自動運転などもあると思うが、やはりそれは、その自動運転を核とした新しいプラットフォームを、半導体ベースで構築していこうとしているのか。
孫氏:NVIDIAのジェンセンは、もう何年も前から尊敬している友人として付き合っている。とくにこの数年間、彼らがGPGPUとして、その先見の明と、そこにかけた先進テクノロジーは、非常に賞賛に値する。本当はもっと前、まだ彼らの時価総額が5,000億円ぐらいの2、3年前から、もっとたくさん買いたいという思いがあった。
しかし、上場したうえに金額も大きいため、我々としては大きな株を買うに至っていなかった。しかし、ビジョンや思いは非常に共有する部分が多いので、事業提携については、我々のグループにarmも持っている。
また、彼らはarmのライセンス先の有力な会社の1社。だから、事業提携としては、これからお互いにいろいろな機会をもって、やっていくことができればいいなという思う。まだ具体的に、何をいつどうしようということがあるわけではない。
――先日、育英財団を発表されたが、その反響はあるか。あと、今日話した軍戦略にも影響するようなものがあるか。
孫氏:育英財団は、僕が将来、自分の生命が尽き果てたあとも、多くの若者、とくに異能を持った若者たちに挑戦し続けて欲しい。そういう思いで、社会貢献の一環として、設立したもの。
そのため、直接的にソフトバンクの事業にメリットがあるものではない。ただ、我々もたくさんグループ会社を続々と作っているから、異能をもった彼らが将来目指す、夢の実現の手助け。
直接あるいは関節的に、我々の投資先も含めたグループ会社や、そこの知人や教授、学者。いろいろなみなさんから、彼らの成長をさらに促進することができればいいなと思う。
――60歳ということを直前に迎えて、やり遂げたこと、あるいは一方でやり残したこと。これは経営か人生かわからないが、自己採点をして、60歳までを100点満点中で、何点ぐらいの自己評価か。
孫氏:自分の自己評価でいくと、しまったなあと。28点。この間育英財団で、8歳の子どもたちを何人か見て、「もう一度戻りたい」と。そうしたらもうちょっと、とことんやれた。後悔することだらけで、自分の不甲斐なさに地団駄を踏む思い。
ただ、まだ人生が終わったわけではない。まだまだ、とくにソフトバンクという組織体・生命体としてのそれは、少なくとも300年ぐらい伸び続けていく組織体であってほしい。そういう思いで、我々の軍戦略・組織体系を作っていっているつもりでいる。
組織体系についてこだわって、ビジョンファンドのことも話をしているが、まさに今、300年に向けた体系が始まったばかり。300年の中の30年。このように位置づけていくと、まだ1合目。
そのため、いろいろやり残したことだらけで、後悔がいっぱいあるが、先は明るい。先は楽しみだ、これからまだまだ攻めていくぞという思い。
――実際に事業統合となったとき、事業再編となった場合の、ソフトバンクの役割はどのようなものになるか。
孫氏:我々は、DiDi、Ola Cabs、Grabなどの筆頭株主だが、うわさによれば「Uberに関心がある」というような記事もある。Uberとの議論、Lyftとの議論については関心はあるが、どちらに、ということは何も決まっていない。
アメリカは非常に大きな市場であり、もっとも重要な市場。そのため、アメリカ市場について関心は非常に高いということは、間違いない。ただ、Uberとパートナーを結ぶのか、投資をするのか。Lyftなのか。それはまったくわからない。
ただ、関心はある。また、現在そのアイディアについていろいろと模索・検討はしていて、両社と議論は続けたいと考えている。これはシェアエコノミーということで、非常に重要な業界の1つであると考えている。交通の利用のしかた、それからその生活様式というのは、今日と30年後、50年後はまったく違うものになると考えている。自動運転も間違いなくやってくる。また、その段階がくれば、このライドシェアというビジネスがより、重要性を増してくると考えている。