【業界トピックス】GoogleのAI「Gemini」がオンプレミス上陸 機密データも安全に活用可能に

GoogleのAI「Gemini」がオンプレミス上陸 機密データも安全に活用可能に

 Googleは米国時間8月末、同社が開発した史上最も高性能なAIモデル「Gemini」を、オンプレミス環境で利用可能にする「Google Distributed Cloud(GDC)」上で提供することを発表した。企業による人工知能(AI)の配備に関しては、AIの活用法を十分に理解していない上層部や、AIに与える情報のクリーニングと体系化といった組織的な障壁が存在するが、今回の発表は、そうした状況を打破し、企業内でのAI導入を促進する起爆剤になる可能性がある。2025年第3四半期からパブリックプレビューが開始されるこの取り組みは、クラウドの利用が制限されてきた政府機関や金融、ヘルスケアといった規制の厳しい業界でも、最先端の生成AIを本格的に活用する道を拓く、極めて重要な転換点となるようだ。この実現に向け、Googleは半導体大手NVIDIAとの強力なパートナーシップを締結し、Geminiモデルを最新の「NVIDIA Blackwell 300」GPU上で最適化して提供するとのことだ。

 この発表の背景には、多くの先進的な組織、特に厳格な規制下にあるエンタープライズや公的機関が長年抱えてきた深刻なジレンマがある。データ主権の要件、業界特有のセキュリティ規制、あるいは超低レイテンシといった理由から、データを自社のデータセンター内に保持(オンプレミス)せざるを得ない組織は、クラウド上で進化を続ける最先端の生成AIモデルを利用することができず、イノベーションの機会を逸してきた。唯一の選択肢はオープンソースのモデルを自社で運用することだったが、これには莫大なコストと高度な専門知識が要求され、運用負担の増大という大きな課題が伴ったと言う。

 「Gemini on GDC」は、この「オンプレミスでのデータ保持」と「最先端AIの活用」という、これまで両立が困難だった要件を同時に満たすソリューションだ。GDCは、フルマネージドで提供されるオンプレミスおよびエッジ向けのクラウドソリューションであり、Googleがインフラ管理を担うことで、顧客はアプリケーション開発に集中できる。「シームレスでゼロタッチのアップデート体験」や、エンドポイントの自動ロードバランシングと自動スケーリング機能により、高度なパフォーマンスと稼働率が維持される。セキュリティ対策としては、Intelの「Trusted Domain Extensions(TDX)」機能を有効化したプロセッサーや、NVIDIAの「コンフィデンシャルコンピューティング」機能を備えたGPUが用いられ、使用中のデータも保護される。この堅牢な基盤の上で、100万トークンという広大なコンテキストウィンドウを持ち、テキスト、画像、音声、ビデオといった多様なデータを扱えるマルチモーダル性能を備えたGeminiが稼働する。

 オンプレミス環境での具体的な活用例として、Googleはいくつかの新機能を挙げている。大企業向けの高度な言語翻訳、文書解析ツールを利用した迅速な意思決定、チャットボットを通じた24時間365日の顧客サポート、Geminiのコード自動化機能を用いた社内ソフトウェア開発の迅速化、そして「有害なコンテンツ」の自動フィルタリングによるコンプライアンスの順守など、多岐にわたる業務変革が期待されるようだ。

 さらに、GoogleはGeminiを単体で提供するだけでなく、AI開発と運用を加速させる包括的なエコシステムもGDC上で展開する。このプラットフォームには、エージェント型AIフレームワーク「Agentspace」、企業向けマネージドプログラミングツール「Vertex AI」、Googleのオープンソース型AIモデルシリーズ「Gemma」、そして各種タスク特化型AIモデルなどが含まれる。中でもAgentspaceは、生成AIの信頼性を左右するRetrieval Augmented Generation(RAG)を容易に実現し、AIが誤った情報を生成する「ハルシネーション」を抑制する上で重要な役割を担う。企業内にサイロ化して存在するデータをAIが横断的に活用するための橋渡し役となり、信頼できる社内情報に基づいた回答生成を可能にする。

 この戦略的な展開はすでに世界中で注目されており、著名な早期導入顧客として、シンガポールの戦略的情報通信技術センター(CSIT)や政府技術庁(GovTech)、ホームチーム科学技術庁(HTX)、ならびに日本のKDDIやLiquid C2などが挙げられている。ServiceNowのような大手ITサービス企業も、「顧客の信頼とデータ保護を維持しながら、最先端技術を実装できる」と期待を寄せていると言う。データ保護と最先端AIの活用、そして運用負荷の軽減を同時に実現するこのソリューションは、これまで生成AI導入を躊躇していた企業のデジタルトランスフォーメーションを加速させる可能性がある。これは、生成AIが真に「どこでも」利用可能になる未来に向けた、極めて重要な一歩だと言える。

参考URL:https://cloud.google.com/blog/ja/products/ai-machine-learni

https://denpanews.jp/

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