【業界トピック】国産のフィジカルAI基盤モデル開発事業が始動

国産のフィジカルAI基盤モデル開発事業が始動

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構は2026年6月30日に、「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の公募を実施し、応募のあった15件の申請から審査を経て実施予定先を決定したと発表した。生成AIはインターネットの登場に匹敵する技術革新と評されており、国内の労働力不足をはじめとする様々な社会課題の解決に寄与することが期待されている。現在、あらゆる分野で生成AIの利活用が検討され、国際的な開発競争が激化の一途をたどる中、日本国内において生成AIの開発力を自給し、確保および強化していくことは極めて重要な課題とされている。このため、経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は密接に連携し、国内の開発力を可及的速やかに釀成するための関連政策を推進してきた。具体的には、2024年2月から「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)プロジェクト」を開始し、基盤モデルの開発に必要な計算資源の提供支援や開発者コミュニティの運営などを行い、国内のAI研究開発を強力に後押ししてきた背景がある。今回始動する新事業は、これまでの取り組みをさらに一歩進め、ものづくりや製造業の現場と深く結びつく「フィジカルAI」の実現を見据えた国産の基盤モデル開発を目指すものだ。

 今回の公募は2026年3月24日から4月22日にかけて実施され、京都橘大学工学部教授の松原仁氏を委員長とする採択審査委員会による厳正な審査が行われた。その結果、実施予定先としてNoetra株式会社(旧名:株式会社日本AI基盤モデル開発)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の2者が採択され、共同で研究開発を推進する体制が決定した。この事業の全体期間は2026年度から2030年度までの5年間を予定しているが、一括での長期契約ではなく、まずは2026年度と2027年度の2年分について契約を締結する仕組みとなっている。2027年度以降の事業内容の見直しや、プロジェクトを継続するかどうかの可否については、毎年度「ステージゲート審査」を実施して厳格に判断される運用のようだ。予算の効率的な執行と確実な成果創出を両立させるため、この厳格なマネジメント手法が採用されている。この事業において、民間企業であるNoetra株式会社は「開発枠」を担い、国内のモデル開発・利活用事業者らの具体的なニーズを的確に汲み取りながら、国際的に高い競争力を備えたマルチモーダル基盤モデルの開発と提供を行う役割を果たす。一方、公的研究機関である産業技術総合研究所は「探究枠」を担当し、国内外の先進的な研究機関などと広範に連携しながら、理論や要素技術、アーキテクチャに関する先導的な研究を行い、将来の競争力の源泉となる基盤技術の開発に貢献することを目指す。

 この事業が目指す開発内容は、高度な日本語理解や論理推論、的確な指示遂行などの優れた基盤的能力を備えた国産AIモデルの構築だ。具体的には、テキストなどの言語データに留まらず、画像、動画、音声、さらにはセンサーデータといった実空間の多様な情報を統合して扱うことが可能なマルチモーダル基盤モデルを段階的に開発していく。最終的には、実世界の空間認識や物理特性までも高度に処理し、現実世界の的確な認識、再現、予測を可能とする「実世界ネイティブAI」に貢献する世界基盤モデルの提供を目指す。現在、日本の領域特化型モデル開発の基盤が海外製のAIモデルに過度へ依存している現状は、国内におけるデジタル赤字の拡大や、将来的な技術の持続供給に対する大きな懸念材料となっている。特に製造業などの生産性向上や産業競争力の強化に不可欠なフィジカルAIの実現には、日本が誇る裾野の広い産業現場のデータを外部の脅威から守りながら、将来にわたって安心して利活用できる独自の国産モデルが絶対に必要だという判断がある。また、世界的なAI利用の爆発的な拡大を踏まえると、エネルギーの自給率が低い日本にとって、AI利用の徹底的な省電力化やグリーントランスフォーメーション(GX)への貢献は他国以上に切実かつ重要な課題となる。この事業で開発された成果の展開方針として、モデルの学習済みの重み(パラメータ)は事業期間内から国内に向けて広く公開され、国内企業や研究者による利用の普及とエコシステムの形成を促進する計画だ。透明性と公益性をしっかりと担保した公開管理を行うことで、国内産業全体の底上げを図り、研究開発の過程で得られた知見や論文についても、ウェブやSNSを通じて迅速に社会へ還元される仕組みが構築される。

 この事業を通じて世界に先駆けて構築される国産マルチモーダル基盤モデルは、日本が強みを持つ現場力とものづくり基盤を最大限に生かし、深刻化する労働力減少を乗り越えて国際的な産業競争力を獲得するための中核インフラとなるものだ。

参考URL:https://www.mext.go.jp/content/20260618-mxt-kyouiku01-000050518_1.pdf

https://denpanews.jp/

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