NEC、水中音響AI基盤モデルの研究を開始
日本電気株式会社は2026年8月18日に、防衛装備庁防衛イノベーション科学技術研究所が実施する「革新型ブレークスルー研究」において、防衛分野と民生分野の双方での実用化(デュアルユース)を視野に入れた「自己教師あり学習による水中音響基盤モデルに関わる研究委託(その1)」を受注し、研究を開始したと発表した。この研究は、電波が極めて届きにくく太陽光も急速に減衰してしまう広大な水中環境において、情報伝達や物標検知の主たる物理的手段となる水中音響データを高精度に解析・理解する先進的な人工知能(AI)基盤モデルを確立することを目指すものだ。防衛や安全保障の領域における水中警戒監視や情報収集能力の飛躍的な向上はもちろんのこと、海洋資源の探索・調査、洋上風力発電施設の点検や維持管理、さらには海洋生態系の保全やモニタリングといった民生分野の海洋産業の発展にも大きく寄与する革新的技術として強い関心を集めている。同社は長年にわたり培ってきた高度な音響信号処理技術や最先端のAI研究の知見を結集し、2027年度までの基盤モデル構築完了を目標に掲げて研究開発を加速させる方針を示した。

水中音響データを活用した従来の解析手法では、取得された膨大な水中音に対して専門知識を有する技術者が手作業で「どの艦艇のスクリュー音か」「どの海洋生物の鳴き声か」といった正解ラベル(アノテーション)を付与し、それを教師データとしてAIに学習させる教師あり学習が主流であった。しかし、広大かつ過酷な海洋環境下で取得される音響データは膨大である一方、人間による極めて高度なラベル付け作業には莫大なコストと膨大な時間がかかり、希少な音源データの収集自体が極めて困難であるという構造的なボトルネックが存在していた。そこで本研究では、ラベルのない大量の水中音響データをそのまま学習データとして直接活用できる「自己教師あり学習」を中核的なアプローチとして採用した。この手法を取り入れることにより、人間によるラベル付け作業の手間を大幅に削減しながら、波浪や潮流、海洋生物の雑音などが複雑に混ざり合う水中音の潜在的な構造や音響的特徴量をAIモデル自身が自律的かつ包括的に学習することが可能となり、従来のデータ不足に起因する認識精度の限界を打破する道が拓かれた。
自己教師あり学習によって構築される水中音響基盤モデルは、事前に音響データの普遍的なパターンや特徴量を広範に獲得しているため、後工程において少量のラベル付きデータを用いて追加学習(ファインチューニング)を行うだけで、多様な下流タスクへ柔軟かつ高精度に適応できる優れた拡張性を持つ。例えば、潜水艦や水上艦艇の推進音を遠距離から高精度に識別・分類する防衛用途にとどまらず、クジラやイルカといった海洋哺乳類の生息状況のモニタリング、水中ドローン(AUV/ROV)による海底パイプラインや海底通信ケーブルの微細な亀裂・損傷検知、さらには海底地形の超高解像度マッピングなど、多岐にわたる海洋アプリケーションへの応用がスムーズに行える。また、NECが保有する大規模言語モデル(LLM)やマルチモーダルAI技術と組み合わせることで、音響情報から周辺海域の状況を自然言語で説明・要約する高度な意思決定支援システムの構築も見据えられている。防衛イノベーション科学技術研究所が推進する枠組みのもとで民間先端技術を積極的に取り込むことにより、研究開発の初期段階からデュアルユース展開を前提とした実用性の高いソフトウェアアーキテクチャの確立が進められていく。
こうした包括的な研究開発により、海洋環境におけるデータドリブンな意思決定が劇的に進化し、過酷な現場で活動するオペレーターの負担軽減や判断精度の向上が期待される。また、民間企業の海洋ビジネスへの新規参入を促すプラットフォームとしての活用や、国際的な海洋環境保全に向けたデータ基盤としての発展など、その波及効果は一国の防衛領域にとどまらない広がりを見せている。この水中音響基盤モデルの研究開発は、海洋国家である日本の安全保障体制の強靭化を支えるだけでなく、未知の領域が多い海洋産業全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を力強く牽引する革新的な技術基盤の確立を目指す。
参考URL:https://jpn.nec.com/press/202608/20260818_02.html
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